恋−ヘッドホン ――急に、ボブの歌声が途切れた。 驚いて振り向いた葉の目に映ったのは、ふくれっつらをしたアンナの姿だった。…手には今まで葉の頭に乗っかっていたヘッドホン。 「何すんだよ、アンナ!?」 葉が抗議の声をあげる。そんな葉を無視して、アンナはヘッドホンを自分の耳に押しあてた。目を閉じて、じっと音楽に耳をかたむける。 「…アンナ?」 しばらくして、彼女はふぅっとため息をつきながらヘッドホンを外した。 「…あいかわらずウルサイ歌ね」 「…!なっ…!?」 訳が解らないながらも、好きな音楽を否定されて黙ってはいられなかったらしい。葉はアンナからヘッドホンを取り返し、「勝手に聴いといて、そりゃないだろ?」と文句を言った。 アンナがスタスタと葉に近寄り、隣に座る。 …だって、とはアンナの返事。 「あたしが呼んでるのに気付かないのは、コイツのせいじゃないの…」 コツン、とCDのジャケットを指でつつきながら。 その拗ねたような彼女の顔を見て、葉は思わず吹き出しそうになった。不満な気持ちなど、一気に失せる。 「ごめんな」 声と共に、アンナは葉の腕の中に包まれた。抱きしめられて、アンナの頬が少し染まる。 「…で、何だった?」 「…もう、いいわ。くだらない話よ」 訊ねられて、アンナがそう答えても、 「何だよ、気になるだろ」 引き下がらない葉と、 「…何でもないってば…」 しばらく、押し問答をした挙句に、やっと。 「…ただ」 「…ただ?」 続きを促す葉の腕の中、アンナはうつむいて真っ赤にした顔を隠しながら、言う。消え入るような、小さな声で。 「……葉と、話したかっただけなのよ…」 ――一瞬、ぽかんとした表情をした後。まるで伝染ったみたいに、葉の顔も見る見る赤く染まり始める。 ヘッドホンからは、まだボブの声がかすかに聞こえていた。 |
書き始めて2つ目くらいの物。「月」が視覚からだったので今度は聴覚から、と思ったのです、確か。 偽者度高! |
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