「……朝まで、おれと一緒に居て、モモ子」

抱き寄せた腕のなかの彼女に、ねだるように囁く。
吐息がかかったのか、彼女は小さく肩を震わせて息を飲んだ。
そんな様子を見て、自分の身体の奥のほうで熱が生まれるのが分かる。
もう離せないな、と思った。こんなつもりじゃ、なかったのに。


おれは、彼女が好きだ。
中学生だったあの頃も、おたがいに違う名を名のって再会した後も――今日まで、ずっと。
モモ子に失った記憶を取り戻させて、二人で彼女の両親のかたきを討ちたいと思っていた。
そのためにおれは彼女のそばを離れなかったし、日を追うごとに愛しく思う気持ちも増していったけれど、彼女と恋人付き合いをするつもりはなかった。
自分勝手な復讐劇に彼女を巻き込んだ揚げ句に、これまた勝手に死のうと考えているおれなんかに、そんな資格がある筈がない。それくらいは、解っていた。


背中にモモ子の腕が回されたのを感じて顔を上げると、頬を赤らめて、けれど瞳には強い光を宿した彼女と視線が絡む。

「…はじめから、そう…言ったでしょ…」

呟くように言うと、直後ぎゅう、と抱きしめられた。

こんなつもりじゃなかったのに。
大事すぎて、愛しすぎてて、傷つけてしまうから、触れずにいたのに。

モモ子の瞳はおれを責めていた。
キレイなだけの思い出なんて、残酷なだけなのだと。

端の綻んだ理性は、彼女の髪の甘い匂いに徐々に浸蝕されている――もう、離せない。
おれの背を抱く彼女に負けないくらいの力を込めて、細い身体を抱きしめ返した。



この前書いた会話だけの"前夜"のいんこさん一人称バージョン。
男谷さんが「彼女と交際したいんです!」(交際…素敵な響きだ)って言ってたことを忘れていました。
05.10.13


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