「――人でなし」

振り解こうともがく両腕を押さえ込んだその瞬間に、投げ付けられた 声。





075:ひとでなしの恋





月の明るい夜。
僕は海岸を一人で歩く彼女を見つける。


「――綺麗な月だからね」

「…別に、そんなんじゃないわよ」

急に目の前に現れた僕を怖がる風でもなく、アンナは答えた。立ち塞がる僕の横をさらりとすり抜けて、歩を進める。

「僕もね、眺めに来たんだよ」

――今夜の満月は 本当に綺麗だから。

繰り返して言って、速さを合わせて隣を歩いた。
小さく顰められる彼女の眉。だけどそれだけで、追い払おうとはしない。

「…もの好きね、アンタも」

ぽつりと、独り言のように返ってきた言葉に

「独りよりは 二人のほうが、寂しくなくて良いよ」

僕も何でもない風を装って言う。

『僕が二人になりたいと思うのは、アンナとだけ』なんだけれど。
そのへんは、言葉にはせずに。

「ふうん…」

それきり アンナは黙ってしまった。



暫く 無言のままが続く。

規則正しい波の音と ゆっくり砂を食む二人分の足音。
心地の良いリズムに身を任せつつ。昼間とは違う明るさの中、僕は隣を行く白い横顔を盗み見た。

色素の薄い柔らかそうな髪と、僅かに異国の血を感じさせる整った顔立ち。そして何よりも、はっきりと前を見据えている 瞳。

――どうしてだろう。

僕と同じ なのに、違う きみ。

胸の奥でまた いつもの感情が焦げ付き始める。

「――アンナ、ねぇ」

受け入れられる事はけしてないと解っている筈のその台詞を、性懲りもなく繰り返さずにはいられなくなる。

「僕の所へ おいでよ」


――アンナが、足を止めた。僕をじっと見上げて。それから、ゆっくりと口を開く。言葉を放とうとする。

聞かなくても解る、きみの揺るぎのない答えを。


「…あたしは――」






「――っ、人でなし」

抵抗するのにも構わずに強引に抱きしめた腕の中で、アンナに呟かれた。

「そうだね…ごめん。少し嫉妬したみたいだ」

彼に。

僕は、彼女の髪に顔を埋めながら言い訳をした。

「…訊くからいけないのよ…」

怒ったような困ったような声で、アンナが答える。

「うん。ごめんね」

「…」

急にアンナが俯いて顔を隠したから、泣いているのかもしれないと思った。


『人でなし――』

言われた言葉が、何度も響いて。


本当に。こんな風にきみを煩わせてる、僕は確かに酷い奴だ。

きみの心の中に アイツとは別の 僕だけの場所がある事を知っていて、甘えてる。

きみのその想いが「恋」じゃないって事も、解ってて付け込んでるんだ――



僕は、月が雲に隠れて辺りが暗くなったのをきっかけに、彼女を放した。

「…またね。おやすみ、アンナ」

そう できるだけ穏やかに囁いた。

俯いたままの彼女は

「…早く、見つけなさい」

あたしなんかじゃない 本当の繋がりを。

口には出さず直にそう伝えると、背を向けた――







「――参ったなぁ」

彼女の姿が見えなくなった所で、僕は堪らずに空を仰いだ。

「月なんて 見に出るんじゃなかった」


再び 辺りを薄白く照らし始めた月明りの中に、ちっぽけな人でなしの溜息が響く。

それはまるで、他人のもののように僕の耳に届いた。







アンナさんの中にあるのは、肉親への愛です。
彼女はハオを愛してると思います。


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