058:風切羽




空が高くて綺麗だと言ったら、寂しそうな顔をされた。

「…どうした?」

なにげなく、ただ思ったままを呟いただけなのに。

問うと、アンナは慌てたように顔を伏せて。

「…あたし、何か変だった?」

「泣き出しそうに見えるぞ」

「やだ…」

何でもないの、と言って話題を変えようとする彼女の逸らした顔にオイラは手をやって、こっちを向かせた。

いまだ、僅かに震えを残した瞳を覗き込んで

「――変じゃねえけど、心配だから」

ごまかせない程度に強さを含んだ声で問い詰めた。

アンナは「本当に何でもない事よ」と前置きしてから、小さな声で話し始める。



あんたが、どっか行っちゃいそうに思えたの。

風があんたの前髪を揺らしてて、あんたは嬉しそうな目をして空を見てて。

一瞬だけど。そのまま、空へ飛んでいってしまうんじゃないかって思ったのよ。

鳥じゃあるまいし。変ね、あたし。


とてつもない失態を見せたと言わんばかりに恥ずかしそうにするアンナに、オイラはそっと腕を回した。

安心して、溜息を一つ漏らして。
それから、ぎゅっと抱いて軽く口づけた。

「よかった。何でもなくて」

「だから、そう言ったでしょ…」

照れたみたいな声の彼女が何だか可愛いと思いながら、オイラはその柔らかな髪を指で梳く。

「――何処にも行かん。アンナと、それから…」

大事な家族をおいて、オイラ何処へも行けんよ。


囁いて、もう一度抱き直したら。アンナは顔を赤くさせながらも少し微笑んだ後、愛しそうな視線をちらりと自分の腹に落とした。


「オイラだってたまにあるぞ、アンナがオイラの前から消えちまうんじゃないかって、怖くなる時」

「あら。あたしはそんなに儚い女じゃないわ。たとえ嫌になったって言われても、離れないわよ」

「おぉ。オイラもだ。だから心配すんな」


二人で顔を見合わせて、笑った。


今度は一緒に見上げた空が、やっぱりすごく綺麗だった。






相手を魅力的に感じるほど余計に、自分との距離を認識させられる。
嫁様は妊娠中で、勿論強くなったんだけど、でも時々感傷的にもなってしまうのです。


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